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世にも奇妙な短編集「秘密の趣味」

投稿日:2019年12月4日 更新日:

世にも奇妙な短編集「秘密の趣味」

「小説家になろう」に投稿している私の小説を皆さんに紹介させていただきます。
フジテレビでタモリさんがストーリーテラーの「世にも奇妙な物語」みたいな感じで作ってみました。

「秘密の趣味」

 職場の壁掛け時計が午後六時を指す。周りが一斉にソワソワし始め、中西拓也(なかにしたくや)も机の上を整理し始める。同じく帰宅準備をしている隣席の鶴田稔(つるたみのる)が、ニコニコしながら拓也に声をかけてきた。

「中西、今日、暇だったら、ちょっと飲みに行かない?」
「あー、鶴田さんすいません。今日はちょっと……。あのー、用事がありまして」
「これからどっか行くの?」
「はい……。えーっと、ちょっと……」

 普段は青白いと言われる顔が、少し赤くなったのを悟られないようにしながら、拓也は急いで会社を出た。アパートに戻ると、着替えを済ませた兄の幹也(みきや)が出掛ける準備を整えて待っていた。

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「待たせちゃってごめん。すぐ着替えるね」

 そう言って拓也は、急いで着替えを済ますと、鏡の前に座って姿勢を正した。

「兄さん、僕の今日のルージュは何色が良いと思う?」
「僕がピンクだから、お前はワインレッドかな」
「了解!」

 中西拓也の秘密……。それは、兄の幹也の影響で、いつの間にか女装が趣味になった事。週に一度、女性の格好をして街を歩くのが快感になってしまった。

 イギリス人の母親に似て、二人とも色が白い。英語は話せないが、日本人離れした顔立ちに化粧は良く映える。女装が好きな二人だが、恋愛対象は男性ではない。ただ綺麗になって街を歩きたい、熱い視線を浴びたい。それが最高のストレス発散なのだ。

 ナンパ目的の男たちが何人も声をかけてきても、軽く手を挙げ笑顔で通り過ぎる。モデル事務所の勧誘も多いが、天使のような笑顔でお辞儀をしてお断りする。男だとバレないように、声を出さずにさりげなく断るのが重要だ。相手の夢を壊してはいけない。

そして時に、いたずら心が芽生えたりもする。

 知り合いに会った時、自分が拓也だとバレるかバレないか。その瞬間が刺激的でたまらない。中学時代の友人に声をかけられても、今まで誰にもバレる事はなかった。

 その日二人は、一時間後に合流する約束をして、それぞれ気ままに街を闊歩していた。早速、兄の幹也が声をかけられている。その様子を離れた場所から見ていた拓也が、今日も順調だなと思っていると、後ろからポンポンと肩を叩く人がいる。誰だ、と思って振り返ると、そこに立っていたのは懐かしい顔の女性だった。

「何してるの、拓也?」
「えっ、拓也? 拓也って誰ですか?」

 思わず声が上ずって、全身の血が顔に集まる。一発で拓也と見抜いたこの女性こそ、拓也が高校時代に好意を寄せていた川嶋那奈(かわしまなな)だった。

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「誰って、拓也って君しかいないでしょ」

 綺麗な顔に似合わず、ちょっと強い口調で突っかかる那奈。口調は荒いが顔は笑っている。

「ちょ、ちょっとごめん……こっち来て」

 拓也はそう言って、那奈の手をぐいっと引っ張った。那奈は自然に、恋人繋ぎで手を絡めてくる。何だか懐かしい。そんな郷愁を感じながら、人気のないビルの階段下で、拓也は那奈に話を始めた。

「これにはね、ちょっとした理由があるんだよ」
「女装癖があるって事だよね。良いじゃん、似合ってるし」

 那奈はそう言うと、拓也がつけているロングのウィッグをねっとりと撫でた。

「そ、そうかな? ありがとう、ははは」
「ねえ、ちょっと歩かない? 二人で」
「えっ、二人で?」

いたずらっぽい笑みを浮かべて、那奈は拓也の手を引っ張った。

 強引に引っ張られて少しよろけながら、拓也は那奈についていく。高身長の美女が並んで歩くと、さすがに目を引き、周囲の視線が二人に集中する。高校時代、男子の人気を集めていた美女であり、拓也の憧れの存在だった那奈。

 運動が苦手だったせいか、内気で引っ込み思案だった拓也は、バレー部のエースだった那奈を遠くから眺めるだけだった。しかし今、その憧れの女性と手を繋ぎ、並んで歩いている。緊張で顔が強張っている拓也とは対照的に、満面の笑みを浮かべる那奈。

 那奈に連れられてやってきたのは、とあるデパートのレディース売り場。那奈が見立て、着せ替え人形のように着替えていく拓也。隣では、見知らぬ女性が着替えている。バレたらどうしよう。胸の鼓動を和太鼓のように鳴らしながら、那奈に言われるがまま試着する。

「これなんか良いんじゃない?」

 那奈の言葉に黙って頷き、一着購入して店を出る。「もう行かなきゃ」と言う那奈に、SNSの連絡先を聞かれて教えた。那奈は「写真撮ろうよ」と言い、拓也の肩をぐいっと引き寄せる。すぐにSNSで送られてきたのは、拓也の顔にくっつきそうなぐらい顔を近づけて撮った写真。

拓也の肩を軽く叩いて「またね」と言うと、那奈は足早に人混みの中へ消えていった。

 しばらくその場に立ちつくしていた拓也に、幹也からの着信が入る。「今どこ?」と聞かれて時間を確認すると、予定の時刻を過ぎていた事に気づき、慌てて約束の場所に向かった。

 三日後、那奈からSNSの着信があった。「今日、これから会える?」の問いに「良いけど」と返すと、「必ず女装で来てね」とのメッセージが続いた。急いで帰宅すると、メイクをして約束の場所に向かう。駅前の待ち合わせ場所に立っていると、誰かが後ろから肩をポンポンと叩いている。

「待たせて悪かったね。じゃあ、行こうか」

 そこに立っていたのは、男装した那奈だった。まるで宝塚の男役のような那奈につい見とれていると、声を低くしてこう言ってきた。

「もし良かったら、僕と付き合わないか?」

 思いもよらない人から思いもよらない格好で告白された拓也は、長いまつ毛を何度も開閉させた後、黙って頷いた。それはまるで、宝塚の舞台のワンシーンのようだった。

【出典:https://ncode.syosetu.com/n1166fm/8/】

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