心霊鑑定士 加賀美零美 1「第30話 女優のすすめ」
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【あらすじ】
心霊鑑定士の加賀美零美(かがみれみ)は、四柱推命と霊視を駆使して悩める人々の相談に乗っている。恋愛の悩み、仕事や人間関係の悩みなど、人それぞれ様々な悩みを抱えている。
霊感の強い彼女は、死んだ人の姿を視(み)ることができ、会話もすることができるため、時には死んだ人が訪ねてくることもある。
相談者の心に寄り添いたいと願う彼女だったが、零美自身の心も悲しみで溢れていた。果たして彼女は、相談者の心を癒し、自分自身も癒すことが出来るのだろうか。
(これは、前作「心霊鑑定士 加賀美零美のよろずお悩み解決所 1」の各話を改稿したものです)
第30話 女優のすすめ
「どうしてこんなやり方でやったの?」
「す、すいません……」
「普通、こんなやり方しないでしょ、あなた頭あるの?」
「ですが課長、これは……」
「何よ、口答えする気?」
「いえ、あの……すいません」
朝から事務所に轟く甲高い声に、森永彩花の胃はキリキリと悲鳴を上げている。どう考えても最善の方法でやったのに、朝霧課長は気に入らないらしい。とにかく、昔からの古臭いやり方を変えてはいけないのだ。
「ほら、見てごらん。川田さんがやったようにやるのよ。川田さん、さすがだわ」
「ありがとうございます」
川田澄江は彩花の二つ先輩で、朝霧課長には気に入られている。課長のいない所ではみんなと一緒に悪口を言っているのに、課長の前では忠犬のような顔を見せる。世渡り上手とは彼女の事を言うのだろう。いたずらっ子のような顔で笑う澄江の性格が羨ましかった。
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零美の店を訪れた彩花の顔は疲れ切っており、二十代のその顔には生気が見られなかった。
その立ち振る舞いを見て、彼女の悩みが相当深いものに感じられた。「お電話くださった森永さんですね?」と零美が尋ねると、小さく「はい」と答えて軽くお辞儀をした。
「雨に濡れたでしょう。さあ、中へ入ってください」
珍しく、かなり強い雨が降っている。彩花の肩が少し濡れていたのが気になった。しかし彼女は、零美の気遣いにも反応する事なく、黙ってとぼとぼと席についた。よほどの心的ダメージなのだろう。零美の胸が締めつけられる。
「私が加賀美零美です。お客様から聞いた内容は、一切他言いたしません。秘密厳守いたします。ですから、何でもお気軽にご相談なさってください。今日はどのような悩みで来られたのでしょうか?」
彼女の不安を和らげるため、零美はできるだけの笑顔を作った。深刻な悩み事を聞いていると、自然と笑顔がなくなる。常に意識していないと、すぐに笑顔が消えてしまう。彩花はふーっと息を吐き、しばらく考え込んだ。そして、少しずつ話を始めた。
「実は最近、新しい職場に変わりました。その職場にかなりきつめの上司がいるのですが、その人とどうやって付き合ったら良いのか悩んでいます」
「その上司は女性の方ですか?」
「そうです」
「年齢はおいくつ?」
「四十代後半ぐらいです」
「その人の生年月日なんてわかりますか?」
「いえ、すいません。そこまではわかりません」
「ですよね。では、その人の写真はありますか?」
「あっ、はい。みんなで撮った写真があります」
彼女はスマホを取り出し、画像を見せた。
居酒屋で撮られた画像には、数人の女性が写っている。
「どの人になりますか?」
「左から二番目の、メガネをかけている女性です」
髪は短く、いかにもはっきり物を言いそうに見える。その画像をじーっと見つめながら、零美はいろいろな情報を感じとっていた。
「この人は、白黒をはっきりとさせないと気が済まないタイプです」
「本当に、いつも怒っています」
「自分が絶対正しいと思っているかなりの自信家です」
「そうですね。自分の非を認めたり、謝ったりは絶対にしません。それでみんなが困るんです」
そう言って、頭を傾げて目を瞑り、ため息をつく。理解出来ない上司の言動に納得がいかない表情だ。
「この人は独身なんですか?」
「そうです。一度も結婚した事はありません」
「この人、とても能力が高くて仕事熱心です。男に負けるかという意識も強いです。この人に敵う男性もなかなかいないかもですね」
「確かに、同僚の男性に対してもはっきりダメ出ししますし、自分より年上の男性にだって容赦はしません。それだけ仕事が出来る人なので、上の方も何も言えないみたいです」
「そうですかあ……」と言いながら、零美は彼女の職場の光景をイメージしてみる。この上司が仁王立ちして声を張り上げる映像が浮かんできた。「森永さん、かなり参っているようですが、精神的に大丈夫ですか?」と聞くが、「はい……」と言った後、次の言葉が出ない。
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「心がもう、ズタズタじゃないですか?」
「はい、もうぼろ雑巾のようです」
「森永さんは感受性が強いです。人の言動に敏感で、特に言葉に対するこだわりが強いと思うんです」
「確かに、汚い言葉が嫌いですね。おそらく、父親の口が悪かったせいかも。自分は人を傷つける言葉は使いたくないという思いがあるんです。だからどうしても、言葉が悪い人は苦手なんです」
彼女の表情は、上司が嫌悪の対象である事を伝えている。
「そんな職場で、お体は大丈夫ですか?」
「心が元気ないと体もつらくなって、重たい感じです」
「一番良い方法は、職場を変える事だと思います。でも、そう簡単にはいきませんよね」
「そうですね。次に良い職場に巡り合えるという保障はありません。生活がありますし、当面は我慢しなきゃと思っています」
「この人、自分の言う事を聞いてくれる人には良くするタイプなんです。はいはいと文句も言わず、そうですよねえと同調してくれる人。そういう人には優しくなるはずです」
「そうやってうまく接している先輩もいて、すごいなあと感心しています」
「そういうのは、なかなか出来ないタイプですかね?」
「はい。要領が悪いです」
「表面だけでも良いと思うんです。心の中では違うと思っていても、表面上で肯定してあげれば、この人の態度は変わるはずです。はあー、なるほどー、そうですよねーってうまく聞き流す感じで」
「そんな事して、逆に怒られませんか?」
「いえいえ。どこまでも男っぽい人ですから、物事の裏を考えたりしないで見たら見たまま、聞いたら聞いたまま受け取る人です。その辺は女優になったつもりで、演技してみたらどうでしょう?」
「女優になる、ですか?」
「はい、女優になるんです。女は誰でも女優になれるんです。あなたの後ろから、監督がカメラを回している事を想像してください。そうすれば、違った意味で毎日が面白くなるかも知れません」
そう言って、零美は優しく微笑んだ。その笑顔を見ながら、この人も演技しているかもと彩花は思った。楽しそうに話す零美の姿が、明日からの自分の姿になれば良いなと思いながら……。
【出典:https://ncode.syosetu.com/n0235fd/30/】
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