心霊鑑定士 加賀美零美 1「第47話 結婚詐欺はビジネス」
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【あらすじ】
心霊鑑定士の加賀美零美(かがみれみ)は、四柱推命と霊視を駆使して悩める人々の相談に乗っている。恋愛の悩み、仕事や人間関係の悩みなど、人それぞれ様々な悩みを抱えている。
霊感の強い彼女は、死んだ人の姿を視(み)ることができ、会話もすることができるため、時には死んだ人が訪ねてくることもある。
相談者の心に寄り添いたいと願う彼女だったが、零美自身の心も悲しみで溢れていた。果たして彼女は、相談者の心を癒し、自分自身も癒すことが出来るのだろうか。
(これは、前作「心霊鑑定士 加賀美零美のよろずお悩み解決所 1」の各話を改稿したものです)
第47話 結婚詐欺はビジネス
「こんにちは。私、結婚詐欺師です」
予約もなしに女性が入ってきて、零美に会うなりこう切り出した。自らが犯罪者である事を隠そうともせず、なんとも堂々としている。彼女は、少しも悪びれる様子がない。
年齢はおそらく三十代であろう。スレンダーな美人で、モデルをしていてもおかしくないほどだ。艶っぽい唇がセクシーなハリウッド女優を連想させる。彼女に結婚を仄めかされたら、大抵の男性はお金を融通するに違いない。
「えっ、結婚詐欺師、ですか?」
突然の自己申告に、思わず戸惑ってしまった。いきなり何だ? 何の目的があるのか? いろいろな人が訪ねてきたが、会った早々に犯罪者である事を明かす人は初めてだった。
「はい、そうです。でも私、誰も殺したりなんかしていませんよ。よくいるじゃないですか、結婚をちらつかせてお金を貢がせて、お金がなくなったら殺しちゃう人が。そういう人は本当に最低ですよ。
結婚詐欺師は夢を売る商売です。この人と結婚したら幸せになれるかもと言う夢を売るんです……。まあ、クラブのホステスみたいなものです。
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ホステスって、お店に来たお客さんの相手をして、気分を良くさせてお金を払ってもらうじゃないですか。
高いお金を払っても、誰も詐欺だなんて言いませんよね。それと同じ事です。店舗を持たないフリーのホステスじゃないかなと、私は思っているんです」
確かに、お互いが満足しているのであれば、それは合法的な商売になる。そうなると、結婚詐欺師と言う表現は違う気がする……。腑に落ちないものを感じながらも、彼女の堂々とした話しっぷりに零美は感心していた。
「ところで、あなたはどうしてこの店に来られたんですか?」
当然な疑問である。ここは警察署ではない。自首をしに来たわけではないはず。ただ自慢をしに来たのだろうか。営業妨害だから帰ってと、零美は言いたかった。すると、そんな零美の気持ちを察したのか、彼女は訪ねてきた理由を話し始めた。
「あっ、違います、ただの世間話に来たわけじゃありません。零美先生の噂を聞いて、是非とも占ってほしくて来たんです。自分を知るって大切ですよね。自分の長所や短所を知る事で、今の仕事に役立てたいと思うんです。
先生だって、結婚詐欺をする人間がどんな星を持っているか、気になるんじゃありませんか? 少しでもお役に立ちたいなと思うんですよ」
そう言って彼女は、得も言われぬ不気味な笑顔を見せた。
余程の自信があるのか、決して目を逸らさない。厄介な客である。
大抵の相談者は、何か解決したい問題を抱えて来るのであり、占い師は、その問題に対する解決法をアドバイスするものである。あるいは、悩みを聞いて共感するだけでも、相談者の悩みは半分解決したようなものだ。
しかし、目の前の彼女には特に問題と言うものはない。威風堂々とした佇まいがそれを雄弁に物語っている。強いて言うなら、先生のアドバイスを受ける生徒のようなつもりなのだろうが、そういう人がいても良いかなと零美は思った。
「そうですか、わかりました。では、あなたのお名前と生年月日を紙に書いていただけますか?」
「名前は言えないので、とりあえずリナって事でお願いします」
本名を言いたくないのはわかる。用心深くなければ、結婚詐欺師を生業とする事は出来ない。零美はパソコンで命式を出すと、印刷したものを彼女の前に置いた。
「これがリナさんの命式です。自我が強くて自信家、自分が正しいと思っているあなたは、確かに頭も良く、よく吟味して行動するので失敗は少ないでしょう。あらかじめターゲットを品定めして、成功確率の高い人にアプローチしていらっしゃるのではないでしょうか
感受性が鋭いので、相手が何を望んでいるかを瞬時に見抜いてしまう能力があります。そこが一番のポイントになるでしょうね」
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彼女は思わず「ブラボー!」と言って手を叩き、にこりと笑った。
「その通りです先生。勝負の分かれ目は、相手が何を望んでいるのかがわかるかどうかなんです。私が売るのはモノじゃなくて、精神的な満足感です。
母親のような愛情を求めている人には母親に、娘のような愛情を求めている人には娘に、先生を慕う生徒や弟子を求めている人には生徒や弟子になります。人はみんな、対象から受ける愛情で満足を得ようとしますから。
その人の心の隙間を埋めてあげて、その代価としてお金を頂戴するわけです。結婚相手と言うと語弊があるかも知れませんから、パートナーと言った方が良いでしょう。
お金持ちなら、いくらでもお金で女性を買えます。それで肉体的な欲求は満たされるかも知れませんが、精神的な欲求は満たされませんよね。社会的地位があればあるほど、その人は公序良俗に反するお店には行けません。そこで、私みたいなビジネスが成立するのです。需要と供給なのです」
確かにそう言われると、犯罪とは思えない。被害者だと訴える人がいなければ、これは立派なビジネスとして成立するのかも知れない。零美は彼女の論理にいたく感心していた。最後に、彼女は悪戯っぽく笑いながらこう付け加えた。
「零美先生も、この仕事に合っていると思うんですけど、やってみませんか?」
突然の申し出に固まる零美を見ながら、「冗談ですよ」と笑う。持論を展開して満足した彼女は、鑑定料を支払って帰っていった。いったい彼女は何だったのだろう。零美は狐につままれたような感覚だった。
【出典:https://ncode.syosetu.com/n0235fd/47/】
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