心霊鑑定士 加賀美零美 1「第61話 彼女がコミュ障になった理由」
「小説家になろう」に投稿している私の小説を皆さんに紹介させていただきます。
【あらすじ】
心霊鑑定士の加賀美零美(かがみれみ)は、四柱推命と霊視を駆使して悩める人々の相談に乗っている。恋愛の悩み、仕事や人間関係の悩みなど、人それぞれ様々な悩みを抱えている。
霊感の強い彼女は、死んだ人の姿を視(み)ることができ、会話もすることができるため、時には死んだ人が訪ねてくることもある。
相談者の心に寄り添いたいと願う彼女だったが、零美自身の心も悲しみで溢れていた。果たして彼女は、相談者の心を癒し、自分自身も癒すことが出来るのだろうか。
(これは、前作「心霊鑑定士 加賀美零美のよろずお悩み解決所 1」の各話を改稿したものです)
第61話 彼女がコミュ障になった理由
平日の昼過ぎにふらりとやってきた菅野奈緒は、前以ての予約はしていなかった。長い黒髪に切れ長の二重が印象的な、スレンダー美女である。「予約してませんけど、よろしいですか?」体をもじもじとさせ、申し訳なさそうな言い方が謙虚で愛らしい。「大丈夫ですよ。どうぞ」零美は笑顔で招き入れた。
「お客様は、お飲み物はコーヒーでよろしいですか?」
「ありがとうございます。お砂糖とミルクもあるとすごく嬉しいです」
笑顔を見せるがぎこちない。初めての相手に対しての緊張からだろう。落ち着かない様子が感じられる。ホットコーヒーの受け皿に、砂糖とミルク、そして一口サイズのチョコレートを二つ添えて目の前に置く。「わあ、このチョコ大好きなんです」大きく開いた口から白い歯が零れた。
「じゃあ早速、お客様のお悩みは……」
「あ、そうですね……。これからの事について悩んでいるんです……」
自信がなさそうに下を向いている。
「わかりました。この紙に、お名前と生年月日を書いてくださいね」
「はい」
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出来るだけ明るく接しようと零美は思った。直感がそう感じさせた。
菅野奈緒の年齢は三十三歳。彼女の命式を出して、プリントアウトした紙をテーブルの上に置いた。
「菅野さん、失礼ですが今お仕事は……」
「していません、無職です」
聞く前からそんな気がしていた。
「そうしますと、実家でご両親と一緒に住んでいるんですか?」
「いいえ、実家ではなく、父の名義のワンルームマンションで一人暮らしをしています」
「ご両親はお二人ともお元気なんですか?」
「母は私が六歳の時に亡くなったんですが、自殺だったようです。父は会社経営で忙しい人で、家に何日も帰らないことがあって、私はいつも一人ぼっちでした。近所の人が見かねて、ご飯を食べさせてくれたりもしました。
会社が軌道に乗って、お金に余裕が出来てからは、家政婦さんを雇ってくれました。お陰で食事には困らなくなりましたけど、基本的にいつも一人でした。ラップがかかったお皿を見ると、今でも嫌になります。
小学生になる前からずっと一人で過ごしていて、父とは口を利く事もなかったので、こんなコミュ障になったんだと思います」
彼女は、訴えるような目を零美に向けた。
口調は淡々としているが、その目は紛れもなく、助けてほしいと訴えている。思っている事をうまく表現できないもどかしさみたいなものが伝わってくる。
「コミュ障、ですか……。私もコミュ障ですよ。気持ちはよくわかります」
「えっ、先生もですか?」
大きく見開いた目が、彼女の驚きぶりを物語っていた。
「私は、人一番敏感な人間なんですよ。人の気持ちが胸に突き刺さってくると言いますか。特に、悪意が強い人と一緒にいるのが耐えられないんですよね……」
「そうですか……。でもここには、いろいろな人が来られるのではありませんか?」
「はい。でもまあ、長く続けているうちに、少しずつ要領がわかってきましたからね。それでも、出来ればあまり人と関わりたくない、というのが私の本音です」
「それは私も同じです」
人と関わりたくないと言っても例外があり、自分を理解してくれる人とは関わりたいのである。自分の生きづらさに共感してくれる人を探して、彼女はここまでやってきた。そして零美もまた、自分と同じタイプの人間を探している……。
「私を必要としてくれる人がいる限り、頑張ってこの仕事を続けていくつもりです」
「先生は強い方ですね。でも、私は弱い人間です。学生時代はいじめのターゲットにされ、社会人になっても人間関係でうまくいかなくて、仕事を転々としてきました。今は父に養われていますが、父が亡くなったら生活保護を受けるしかないかも知れません」
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下を向いてぼそぼそと話す彼女から、未来に対する希望が少しも感じられない。
心を病んでいる。そう表現する他はない。
「菅野さんのお父さんは、結構な財産家なんですか?」
「そう言われればそうなんですが……。父は、私が二十一の時に再婚しました。相手は二十歳以上も年下の女です。明らかに財産目当てですよね。彼女のお陰で、私は実家を追い出された形です。父はあの人の言い成りですからね。このままだと、私には財産を遺してくれないかも知れない。それが心配なんです」
彼女の目はつり上がり、憎悪が伝わってきて怖かった。
「失礼ですが、ご結婚は……」
「した事はしましたが、一年前に離婚しました。私なりに努力したつもりですけどね。どうしても彼のお母さんとうまくやっていく事が出来なくて……。結局、彼は私ではなく、母親を選んだんです」
そう言って唇を噛む。
「菅野さん、再婚は考えないんですか? せっかく綺麗なのに、もったいないです……」
「こんな暗い性格の私でも良いよって言ってくれる人がいれば、結婚したいんですが……」
「きっといますよ。結婚相談所とかに登録なさったらどうですか? ああいうのは、真剣に結婚を考えている人が登録するはずですからね。あなたの武器は綺麗な顔ですから、写真を見て会いたいって人は多いはずですよ」
「そうですかねえ……」
「実は面食いだったり、年収が1000万円以上じゃないとだめとか、相手に対する要望があるんですか?」
「そんなのありません。こんな私で良ければ、ある程度の事は我慢するつもりです」
意外に殊勝な心掛けである。プライドばかり高いとなると、何も言えなくなってしまう。
「じゃあ、とりあえず婚活しましょう。あなたがこれからやるべき事は婚活です。気になる方が見つかったら、その人との相性を占ってみましょうよ。相手のタイプがわかれば、どうやって攻略すれば良いかを考えられますしね。私と一緒に、婚活頑張りましょう」
零美の言葉に「ふふふ」と笑う彼女。少しだけ、明るい未来が見えてきたようだ。「頑張ってください。またいつでもここに寄ってくださいね」と言いながら、背中に手を当てて彼女を送り出す。良い出会いがある事を願いながら……。
【出典:https://ncode.syosetu.com/n0235fd/61/】
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