心霊鑑定士 加賀美零美 1「第83話 人は誰でも何かしらの才能を持っている」
「小説家になろう」に投稿している私の小説を皆さんに紹介させていただきます。
【あらすじ】
心霊鑑定士の加賀美零美(かがみれみ)は、四柱推命と霊視を駆使して悩める人々の相談に乗っている。恋愛の悩み、仕事や人間関係の悩みなど、人それぞれ様々な悩みを抱えている。
霊感の強い彼女は、死んだ人の姿を視(み)ることができ、会話もすることができるため、時には死んだ人が訪ねてくることもある。
相談者の心に寄り添いたいと願う彼女だったが、零美自身の心も悲しみで溢れていた。果たして彼女は、相談者の心を癒し、自分自身も癒すことが出来るのだろうか。
(これは、前作「心霊鑑定士 加賀美零美のよろずお悩み解決所 1」の各話を改稿したものです)
第83話 人は誰でも何かしらの才能を持っている
平日の夕方、昨日の電話で予約した市川一郎が零美の店を訪れた。黒いニューヨークヤンキースの帽子を被り、薄手の濃紺の作業着を着ている。
「初めまして、こんばんは」
「どうもこんばんは。市川さんですね、中へどうぞ」
彼は被っていた帽子をとって一礼すると、指定された席に座った。零美が「コーヒーでもいかがですか」と聞くと「是非いただきます」と答えた。出された淹れたてのコーヒーの香りを楽しんだ彼は、目を瞑って「excellent(エクセレント)」と呟いた。
「コーヒーがお好きなんですね?」
「そうなんです。このコーヒー、良いですね。上等で、お洒落です」
「褒めていただき、ありがとうございます」
零美は、コーヒーを褒められる事が何より嬉しい。思わず顔がほころぶ。美味しそうにコーヒーを飲む彼に「市川さんのお悩みは何でしょうか?」と尋ねてみる。彼はコーヒーカップを置き、「僕の悩みはお金の事です」と答えた。
「昔から僕は、お金の事で悩んでいます」
「なるほど、わかりました。ではこちらに、生年月日を書いてください」
言われた通りに紙に書いて手渡す。それを受け取った零美は、パソコンで命式を出し、プリントアウトして彼の前に置いた。
「市川さん、自分には金運がないと思いますか?」
「はい、そうですね」
「実は市川さんは、金運ありますよ」
「えっ、嘘? ほ、本当ですか?」
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予想していなかった言葉に声が裏返る。
「市川さんは、金運がないのではなくてお金に執着しないんです」
「執着しない?」
「そうです。市川さんは、お金よりも精神的な満足を求める人ですから」
「はあ、精神的な満足……」
「市川さんは今、どんなお仕事をされているんですか?」
「僕は運転手をしています」
「自動車の?」
「そうです。元々は便利屋でしたが、今はある社長さんの家庭の専属運転手です」
「専属の」
「はい。奥様やお子様の運転手で、社長さんには別の運転手がいます」
「毎月の収入はどれぐらいですか?」
「いろいろプラスアルファ―されて、月に約二十八万円です。でも、学校が長期休みになると、その月の収入はゼロになります」
彼は苦笑いをして、右手の親指と人差し指でゼロを意味する輪を作った。
「では、二ヶ月くらいはゼロですか。二十八掛ける十で年に二百八十万ですね」
「そうなります」
「市川さん、ご結婚は?」
「まだ独身です」
「お一人なら、なんとか生活出来るのではないですか?」
「でも、結婚を考えている女性がいまして……」
「えっ、そうなんですか? 予定はいつ頃?」
「来年ぐらいにしたいなと」
「そうなんですか」
「しかも困った事に、今の契約が来年の三月までなんです」
「その後はどうするんですか?」
「別の仕事を探そうかなと思っています」
「じゃあ、まだ決まっていないわけですね」
「そうなんですよね」
そう言って、肩を落として俯く。このままでは、もうすぐ収入を得る手段がなくなってしまう。お金に対する彼の心配は深刻だった。
「市川さんは、会社勤めは得意じゃないですよね」
「まあ……」
「人に指図されたくなくて、自由に生きたいタイプですからね」
「確かにそうです」
「市川さんはお金より理想に生きたいって感じですね」
「まあ、理想だけじゃ生きていけないのはわかっているんですが……」
腕を組んで俯く彼の様子から、自分に対する自信のなさが伺える。
そこで零美は、命式を観ながら彼に提案してみる。
「市川さんは、文章を書いたりするのがお好きじゃないですか?」
「文章を書くのは割と好きです」
「そうですよね。市川さんには文才がありますから」
「えー、そうですか?」
「そうですよ。言葉に関する感覚が鋭いです」
「確かに、言葉には敏感かも知れません」
「それに、想像力も豊かですし」
「妄想力じゃないですかね」
はははと自虐的に笑う。
「文章書く事を仕事にするのはどうですか?」
「それは、小説家って事ですか?」
「そうです、そうです」
「でも、僕なんかになれますかね?」
「きっとなれますよ」
零美は自信たっぷりに言い切る。人は、自信たっぷりに他人に言われると信じたくなるもので、特に彼のような普段から自信がない人間には効果的である。
「今まで小説を書いた事ありませんか」
「ありません。俳句とか短歌、詩のような短いものは好きなんですけど、小説って結構大変な気がして……」
「短編やショートショートもあるじゃないですか」
「ありますね」
「まずは短い物語を書いてみたらいかがですか?」
「短編を?」
「妄想は得意って言ってたじゃないですか?」
「そりゃもう、僕なんか毎日妄想ばっかりですよ」
「それを文字にしてみるんです」
「でも、僕の頭の中はいつもごちゃごちゃで……」
「せっかく頭の中で言葉が生産されているのに、それをお金に変えないなんて勿体ないですよ」
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そう言って零美は思い立ったように立ち上がると、奥の部屋から一冊の本を持ってきた。
「これ、読んでみませんか」と言って彼に手渡す。
「えっ、これは?」
「私の夫が書いた本です」
「ご主人さん、作家さんですか?」
「そうです。それ、彼の短編集なんです」
渡された本をパラパラとめくってみる。
「なんか、面白そうですね」
「はい、面白いですよ」
「これ、お借りしてよろしいんでしょうか?」
「それ、良かったら差し上げます。どうぞお読みになって、是非参考になさってください」
「わあ、ありがとうございます。是非、じっくりと読ませていただきます」
彼は大事そうに本をバッグにしまうと、上目遣いでこう言った。
「先生……僕は、小説家になれるでしょうか?」
「はい、なれます」
「ほ、本当ですか?」
「はい。私はそう思います」
彼は疑り深い性分だが、自信に溢れた零美の目に洗脳されたようだった。人は誰でも何かしらの才能を持っているが、それに早く気づけるかどうかが問題なのである。それを自分で見つけられず、見当違いの人生を送るのは本当に勿体ない。
確かに彼には文才があり、それをお金に変える運を持っている。ただそれに今まで気づかなかった、あるいは薄々気づいていたが、信じきれなかったのである。
ゴールはそう簡単ではないかも知れない。しかし、スタートしなくてはゴールに到達しない。占い師は、迷っている人の背中を押してあげるだけなのだ。
零美は自分で、人の才能を見抜く才能があると信じている。事実、言われた通りにやって成功した人は数多い。今回の彼も、きっと成功するに違いない。そして、成功したという事例を一つでも増やしたい。彼の笑顔を見ながら、零美はそう思っていた。
【出典:https://ncode.syosetu.com/n0235fd/83/】
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