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23区で10年間に63人の妊産婦が自殺「産後うつ」「虐待死」の実態

投稿日:2018年7月6日 更新日:

23区で10年間に63人の妊産婦が「産後うつ」が原因で自殺したとのこと。
そしてそれは「虐待死」にも直結するのです。

虐待・自殺が止まらない…「産後うつ」の実態と今すぐにできること

虐待死の43%は0歳児です 2018.07.04
なかの かおり

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胸ふさがれるような虐待の事件が後を絶たない。
様々な背景があるが、「産後うつ」はその原因の一つだ。
自ら産後の辛さを実感したジャーナリストのなかのかおりさんが、妊産婦のメンタルヘルスに取り組んできた産婦人科医・海老根真由美さんに実態を聞いた。

23区で10年間に63人の妊産婦が自殺

私はワンオペ育児に苦心した経験から、産後うつの取材をしている。
記事に対して「私も赤ちゃんを投げ捨てようと思った」と切実なコメントが寄せられ、この瞬間にも「もうだめ」とツイートする母親たちがいる。

産後うつが影響する児童虐待のニュースも後を絶たない。医療機関や行政の課題は何か。
身近な家族や友人ができることは――。

国立成育医療研究センターと聖路加国際大、東京大は、産後1年未満の自殺件数や背景を明らかにする研究を進めている。
昨年度に調査を終え、今年度末までに結果を発表したいという。

母親のメンタルヘルスケアの充実や関係機関の連携を進める目的だ。
日本の妊産婦死亡率は出産10万人に対して3.8人と、医療技術の向上で低くなっている一方、産後うつなどの実態はわかっていない。

東京都観察医務院などの調査で、東京23区で2005年から10年間に63人の妊産婦(妊娠中~産後1年未満)が自殺したとわかった。
これは出産10万人に対して8.7人と高い数字だ。

産後の母親の様子に詳しい医療関係者がいないので調査結果が少ないが、海外のデータと比べても多いという。
他に、大阪市で2012~2014年に妊産婦の自殺は9件、三重県では2013~2014年に4件との報告がある。

リアルな育児の始まりと共に発症

海老根さんは1997年、厚生科学研究(九州大中野班)に参加。
妊産婦に担当助産師を決め、メンタルヘルスの調査をした。

「国内で産後に落ち込む『マタニティーブルー』は、30%ほどのお母さんに見られ、それは1週間から2週間位の一過性のもので1ヵ月は超えません。産後1か月ぐらいから産後うつを発症する可能性があり、3ヵ月でピークを迎えます。産後うつは10%ほどに見られます」

「産後1か月の健診ではわからないことも多いです。里帰りをしていれば親の援助もあるものの、自宅に帰れば支えがなくなり、リアルな育児が始まる。新生児はよく泣く赤ちゃんへと変化していきます。6ヵ月までが特に産後うつを発症しやすい時期で、産後1年以内に発症する例が多いです。発症しやすい要因には、住居環境の不満足、産後の夫の家事時間が短いことなどがあります」(海老根さん)

筆者は産前産後に夫が海外に単身赴任しており、身内は遠方・高齢で頼れなかった。
出産直後に激しいブルーに襲われて号泣。
臨床心理士を紹介されてしばらくカウンセリングを受けた。

産後は出血が続き、ぼろぼろの体で1日に10回以上の授乳やおむつ交換。
細切れ睡眠でぼーっとした頭で、夜中に娘を抱えて「口を押えたら泣き止むかな」と考える自分が恐ろしかった。
「虐待や産後うつは特別な例ではない」と実感した。

虐待死の被害、0歳児が43%

実際に産後うつは、虐待にも結びつく。
厚生労働省によると、2011年度に心中以外で虐待され亡くなった子58人のうち、0歳が43%で最多。
1歳が14%と次に多い。

死亡させた理由の上位は、1歳未満で、「育児不安や育児負担感」「産後うつ、育児ノイローゼ」が多かった。
主な加害者は実母が約80%だった。

「妊婦健診で産後うつを発症しやすい要因があるか、家族背景、経済的な問題といったリスクを早期に発見し、医師や助産師の介入や、精神科や他科との協力が必要。医療機関と行政との連携や、出産前からの情報交換も大事です。こうした介入や援助がないと、虐待に結びつきやすい。妊婦健診を受けず、サポートがなくて養育の意識が低く、ネグレクトになった例もあります」

妊娠中に夫から受けたDVが子への虐待につながるケースも見てきたという。
「医療関係者は、意外にも虐待やDVに関する知識が乏しいです。警察、児童相談所、保健所、婦人相談センターなどの通報先すらわからない場合も少なくありません。医療者が感じる危機感を関係機関に伝えきれなかったり、母親の公的機関に対する不信感があったり、現実的な対応を協議するのに時間がかかり、対応が遅れがちです」

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「ここに行けば治せる」場所がまだない

現在は、大学病院など医療の現場で妊娠後期から産後の周産期ガイドラインが修正され、こうしたメンタルヘルスに目を向けようとしている。
行政も動き始めたが、まだ十分ではない。

「今まで、産後健診の助成はありませんでした。今年の4月から、産後のメンタルケアを含めた健診助成が始まったものの、自治体により差がある。産後うつの国際的な評価シートを、助産師が乳児訪問で取り入れても、点数だけではわからない部分もあり、そうした部分に精神科医や臨床心理士がどう入っていくかが課題です。地域の保健センターは、母子支援と精神疾患の支援が分かれています。これを分離せず連携させれば産後うつに対応できるのではないでしょうか」

「産後のお母さんたちにとって、助けを求めやすいのは出産した産院や助産師です。でも、産後しばらくたつと受診する理由がなくなってしまいます。また、産婦人科医はどの精神科医に紹介していいかわかりません。精神科でも、産後うつを得意とする専門家が少ないように思います。『ここに行けば産後うつを治せます』という場所はまだないので、なんとか改善したいと現場の私たちも働きかけ、(冒頭の)産後の自殺に関する調査が始まりました」

高学歴の女性は産後うつになりやすい?

具体的には、どのような仕組みで産後うつになってしまうのだろうか。

「医学的に見ると、産後はホルモンレベルが低く、ストレスに対処する能力が下がっています。そして慣れない子育て、昼夜途切れない生活に疲れがたまり、うつになりやすいのです」

「最近の傾向で、妊娠出産の知識がない高学歴の女性は産後うつになりやすいように感じます。それまで男社会で生きてきて、計画が立ちにくいという状況が得意ではないからかもしれません。妊娠初期にも、つわりで気持ち悪いとか出血があるとか、職場で誰に言えばいいかわかりません。さらに、育休を取るため上司に相談するのも戸惑ってしまうのです」

「お母さんたち同士の井戸端会議でわかるような情報も、仕事中心の人間関係では得られません。産後、ご飯も作れず、一人きりで奮闘しているお母さんのために、私のクリニックでは日帰りのケアを用意しています。スタッフが話を聞き、バランスのとれた食事、母乳マッサージやママ整体もあります。この一環で、井戸端会議ができるような産後の集まりや、カフェでのお話会もやりたいですね」

産後うつは解決する

産後うつは取り組めば解決する、という海老根さん。

「産後に体調が悪いと、お母さん自らが子どもを連れて病院に行くことができません。家族が一緒に病院に行ってほしいです。治療は抗うつ薬も有効ですが、内服薬に対してお母さんたちの抵抗もあります。滋養強壮の漢方を飲んでもらう方法もあります。カウンセリングだけでやっている精神科クリニックもあります。助産師が、お母さんだけでなく家族や夫のケアもします。自費診療になってしまいますが、手厚いケアが受けられます」

「あとは、単純なようですが、家族や身近な人がお母さんを褒めて支えるという方法は有効です。傾聴して、共感する。そうすればお母さんが孤独で我が子を虐待してしまうのを防げる。関わり方がわからない人も、『赤ちゃんかわいいね』と言ってくれたら大丈夫なんです」

子育て中、家がぐちゃぐちゃも仕方ない

海老根さんはこうアドバイスする。
「産後、外に出られない時期があります。母子を2人きりにしないように、家族や友達がいてくれたらいいと思います。ところが、今は産後の片付かない部屋にお客さんを迎えたくないという人も多いですよね。私は妊婦さんに、『先に産んだ人の家にお泊まりに行ってみて、お子さんたちが元気で家の中がぐちゃぐちゃでも気にならないから』と話します」

また、家事・育児の外注も提案する。
「昔の大家族のようなスタイルは理想的ですが、リアルの家族はみんな忙しい。だから地域で手が空いている高齢の人に、家事や上の子の送り迎えなど助けてもらえたらいいと思います」

夫婦でできること、できないこと

筆者の取材の中でも、「夫の暴言がひどく赤ちゃんを連れて逃げた」「一生、夫を許せない」といった夫への不満が多い。
逆に夫からの「こうやって努力している」「長時間労働に家事・育児はきつい」といった声もある。
一番、身近で難しい関係について、海老根さんはこう語る。

「そばにいる夫に、一番の理解者でいてほしいです。妻を肯定する夫は大丈夫。最近、夫のスキルも上がっていて子育てが得意な人も多い。一方で、夫も産後うつの妻を支えてうつになる可能性があるので、妊娠中に細かく話し合っておくといいですね。お互いに何ができるか、できないのか、生活はどうするか。産後に、日常の家事や育児について夫婦2人でゆっくり話し合う時間はないですから」

     ◇

取材を通して、産後まもなくの間だけでなく、産後うつをこじらせて不調を抱え、子育てに困難を感じ続ける親もいると知った。
筆者も39歳で初産後、1年で職場復帰し、子どもの病気と会社勤めで家庭は修羅場に。
結果、退職して新しい仕事の形を模索しているが、娘が小学生になった今も働く母親のハンデは大きいと感じる。

2人、3人と産んだ親はずっと産後が続く。
筆者も産後の大変さは一生、夫婦で分かり合えない部分があると思っている。
夫と話し合おう、周囲は理解をと言っても、命がけの母親にはきれいごとかもしれない。

それでも、母子で入院できる産後ケアセンターが増えているし、乳児訪問に力を入れる助産師もいて、少しずつ進歩している。
こうした記事で産後の現実を知ってもらい、具体的なサポートの手段と理解が広がってほしいと思う。

えびね・まゆみ
埼玉医大総合周産期母子医療センターを経て順天堂大産婦人科非常勤講師。
白金高輪海老根ウィメンズクリニック院長。
二児の母。

[出典:虐待・自殺が止まらない…「産後うつ」の実態と今すぐにできること(なかの かおり)現代ビジネス(講談社 > http://gendai.ismedia.jp/articles/-/56298 ]

確かに、子育ては女性にかかる比重が大きすぎます。
祖父母が側にいてくれたら助かりますが、そうではない夫婦も多いわけで。
これは重要な問題だと思います。

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