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出会いの場として利用される「民泊」トラブルの闇

投稿日:2018年3月16日 更新日:

以前書いた記事「違法民泊」に独りで泊り続けた女子の想像を絶する経験とは!?で紹介した吉松さんが、民泊市場のダークサイドをリポート。

違法民泊にハマった女子が語る「出会い系民泊」の闇 2018.03.04

吉松 こころ 暮らしジャーナリスト

女子独りで違法民泊に泊まり続けて体当たり取材を行い、現在は「元民泊」の賃貸物件に住んでいるという、民泊を究めたジャーナリスト、吉松こころさん。
大阪では民泊を舞台に女性が殺害されたとみられる事件も発生する中、急増する民泊市場のダークサイドを、吉松さんがリポートする。

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突然、カギを開けようとする「謎の来訪者」

日曜午前10時、寝足りない目を擦りながらくたびれたトレーナーを羽織り、ずり落ちそうなスエットを目いっぱい引き上げた。
「うどんあったかな」。

冷凍庫にうどんがあるのを確認し、鍋に火をつけた。
よーし、と椅子に腰掛け、テレビをつけようとした瞬間、玄関から異様な音がする。

ガチャガチャガチャ。
「ひっ」と玄関ドアの方を振り返る。

ワンルームなので、リビングと玄関は、ほぼ一体化している。
自分から、わずか1mほどしかないドアの向こう側で、誰かが鍵穴にカギをさし、開けようとしている。

ガチャガチャ。
今にも開きそうじゃないか――。

カギを交換したと分かってはいても、音を立てぬように椅子から立ち上がり、とっさに隠れ場所を探してしまう。
すると今度は、訪問者がドンドンとドアを叩きはじめた。

やめてくれー、帰ってくれー……。
この日は、午後にも二度、同じことがあった。
日曜日だというのに休まらない。

私が住む賃貸の部屋は、もともと違法民泊だった。
マンションの5階にあるのだが、その下の、4階と3階の部屋は、いまでも違法民泊として貸し出されている。

別の日には、酔っ払って戻ったと思われる旅行者が私の部屋のインターフォンを押し、ベッドから転げ落ちそうになったことがある。
時計を見たら夜中の2時だった。

真っ暗闇の中で煌々と光るインターフォンの画面を覗くと、金髪の女性が立っていた。
何が起きているのかわからなかったが、部屋を間違えているのだと察し、ひたすら彼女がいなくなってくれるのを待った。

冒頭で紹介した日のように、玄関のドアノブが突然回されることは日常茶飯事だ。
深夜でも、昼間でも。
独り暮らしの身には、突然ドアがガチャガチャと音を立てるときの恐怖は、正直かなりこたえる。

民泊では、いろんなことが起こります。

そんな生活を、1年半以上続けている。
この間、「突然の来訪者」以外にも、様々な出来事があった。

一番ギョッとさせられたのは、早朝、出張に出掛けようと階段を降りていたら、踊り場で巨漢の黒人男性が寝ていたことだろうか。
どうか起きないで、と祈りながら、スーツケースを抱えてまたぐしかなかった。

また別の日には、下着姿の白人女性が泣きながら彼氏と喧嘩しているのを見たこともあった。
どうすることもできず、「ハ、ハロー」と言いながら横を通り過ぎた。

そうそう、階段には、さまざまな物も落ちている。
タバコの吸い殻が放置されているだけでなく、「これは……オシッコか」と思うような液体とシミが堂々と残っていたこともある。

5階と4階の間であるにもかかわらず、なぜかミミズが死んでいたこともあった。
マンションが建っているのは、周囲に土さえ見えない、東京のど真ん中だというのに……。

民泊物件では、色々なことが起こる。
3階の部屋に泊まったカップルが愛を確かめ合っている声があまりにも大きくて、階段で呆然として足を止めてしまったこともあった(意図的に、ではない)。

たしかに民泊は「出会いの場」だが…

日本で急成長を遂げている民泊市場だが、強姦未遂などの問題が表面化するに従い、その安全性に疑問の声があがってきた。
つい先日は、大阪・東成区の古いマンションの一部屋だけが無届けのまま民泊として貸し出されていた物件(つまり違法民泊)に、27歳の日本人女性が誘い込まれ、米国人旅行者に殺害されたとみられる事件も発生している。

一部報道によれば、国境をまたいで加害者と被害者の二人をつないだのは、「出会い系マッチングアプリ」だったとされている。
そもそも民泊は、お互いの異文化を理解するという意味で、旅行者と現地の人々をつなぐ、出会いの場ではある。
しかし、その「出会い」の意味をはき違えて利用する者が世界中にいるのも事実だ。

2004年にアメリカで設立された元祖・民泊仲介サイトの「カウチサーフィン」(以下、CS)は、一部で「出会い系サイト」とも揶揄されている。
CSは、民泊仲介サービスとして有名な「Airbnb」同様、民泊を仲介するサイトではあるが、両者には大きな違いがある。

というのも、CSではホストがボランティアで自宅のカウチ(大型のソファ)もしくは空き部屋などを貸すため、金銭のやり取りが発生しないのだ。
そのため、営利目的で部屋を貸すのではなく、あくまでホームステイを通じた国際交流が目的とされている。

ゲストには、ホストと生活を共にすることで、現地の日常生活に溶け込みながら滞在できるというメリットがある。
日本での知名度は低いが、世界20万都市に140万人の会員が存在し、欧米やヨーロッパの若者を中心に支持を集めているという。

CSで起きたトラブルは、あまり表沙汰になっていないようだが、実際にはさまざまな事件が起きていることが、利用者の証言から明らかになった。
私は、バックパッカーとして3年間で90ヵ国・394都市を旅したという日本人女性のえみさん(30歳)を取材した。

「旅行の猛者」と呼んでもいい彼女は、語学力向上と現地の人々との交流のために頻繁にCSを利用してきたという。
結果的にそれは宿泊費を抑えることにもつながった。
だが、そうした旅の中で彼女は世界各国のホストや旅行者から、CSを使っていて危険な目に遭ったときの身の上話を聞かされたという。

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世界中の人が困惑する「民泊トラブル」

たとえば、イランのセムナーンという町に住むイラン人のマリー(38歳)は、詩を教えるかたわら、2階建てマイホームの一室を旅行者に開放していた。
夫と小学生になる二人の息子と一緒に暮らすその自宅で、ある欧米人青年をホストしたとき、青年はマリーが既婚者であることを知りながら関係を迫ってきたという。

「家族と一緒に住んでいるのに、そんなことを言われて困惑しました。悪い子ではなかったんだけど……」
マリーの言葉には、そのときの混乱と恐怖が滲んでいたとえみさんは話す。

この種の民泊で狙われてしまうのは、女性ばかりではない。
2009年から150回以上、CSを利用してきたというポーランド人のピーター(29歳)は、ゲイの男性ホストに襲われそうになったことがあるという。
相手と話して、自分には同性愛的な指向はないと伝え、誤解を解いたが、「そのつもりではなかったのか」といったようなことを言われ、ショックを受けたそうだ。

このように「出会い系」と勘違いされてしまう側面もあるCSのサービスなのだが、サイト内の安全対策はどうなっているのだろうか。
サイト上では、メンバーの写真つきのプロフィールを確認することができる。
加えて、レファレンスと呼ばれる評価欄には、過去に宿泊したゲストやホストからのコメントが、「ポジティブ」「ノーマル」「ネガティブ」の3段階評価とあわせて書かれる仕組みになっている。

過去に問題を起こせば、その人物がどういった悪行をしたかが公開されるため、ある程度は互いの人物像を把握できることになる。
一応、このような仕組みはあるのだが、しかし、だからといって利用者の身の安全が保証されるとは限らない。

えみさん自身も、恐ろしい経験をしたことはあるという。
ジョージアの首都トビリシに滞在したときのことだ。
CSを通じ、トルコ人男性の家に泊まることになった。

その男性のレファレンスには、以前宿泊したカップルがポジティブ評価をし、コメント欄には「親切にもてなしてくれ、街案内までしてくれた」などと書かれていたという。
事前のメールでのやり取りも丁寧で実際に会うと感じも良く、到着したその足で友人の集まるクラブに連れていってくれた。

しかし、夜になってホストの態度は一変した。
なんと一緒のベッドで寝ることを強要してきたのだ。

えみさんは、荷物をまとめその場を飛び出した。
しかし泊まるはずだったそのマンションが街の中心部から9kmも離れた郊外の住宅街で、付近にはホテルやカフェもなく、タクシーさえ走っていなかった。

結局、同じ建物内の階段に座って、夜が明けるのを待ったという。
えみさんは、「自分が旅にも慣れてきた時期で、気が緩んだのがいけなかった。善良な人に紛れてターゲット探しをしている輩がいることを知っておくべきだった」と振り返った。

日本国内にも「出会い系民泊」の闇が

さて、そんな海外の民泊事情だが、国内でも「出会い」を求める人々に民泊が利用される例が出てきている。
たとえば、こんな話がある。
横須賀米軍基地近くにある飲み屋街「どぶ板通り」。

周辺に立ち並ぶ飲食店、クラブ、バーなどは、夜な夜な、さまざまな意味で出会いを求める若い男女でごった返してきた。
そんな横須賀で昭和44年から不動産会社を経営する社長は、私にこう語った。

「空母の帰還にあわせ、民泊で2~4ヵ月程度の短期滞在をする20~30代の女性の方が存在します。まれに40代の方もいますね。
彼女たちは都内や地方から来ていて、リピーターも多いですよ。米兵と付き合うのが彼女たちの夢だと聞いています」

家賃は時期によって変わるが1ヵ月15~25万円。
社長いわく「OL風の美人が多い」という。

「軍の人たちは基地内に彼女たちを連れ込めないため、外で部屋を借りてくれると助かるようです。聞くところによると、(そうした部屋を用意した上で)日本人女性のほうから積極的に声をかけている人も多いそうですよ」

健全な民泊の成功例も生まれている

だが、もちろん、当然ながら、民泊は「出会い系」の目的ばかりで利用される存在ではない。
たとえば、横須賀と同じ神奈川県の鎌倉には、きわめて健全な国際交流の場となっている民泊もある。

オープン早々、アメリカやロシアを始めとする5ヵ国のウィンドサーフィン・ヨットのオリンピックチーム御用達となった宿、「Blue Lagoon」(神奈川県鎌倉市)だ。
湘南モノレール「西鎌倉駅」から徒歩8分、七里ヶ浜ビーチから約1kmに位置する。

同宿の仕掛け人は、サーフィン歴50年の株式会社Brain Trust from The Sun(東京都中央区)の富永忠男さん(62歳)だ。
2017年5月にBlue Lagoonを簡易宿所としてオープンさせ、宿の運営管理やゲストとのやり取りを含むほぼ全てを富永さんとスタッフ2名で対応している。

築45年で2DK55㎡の平屋を、工務店を営むサーフィン仲間とともに、4ヵ月間、250万円をかけてフルリノベーションした。
この物件はそれまで1年以上空き家だったため、オーナーからはリノベーションの上、簡易宿所として申請することへの承諾を得られたという。

「海」をコンセプトに作られた宿には、広々としたウッドテラスがあり、ビーチでついた砂を落としてから室内に入れるよう、シャワーもついている。
1棟貸しで最大5名まで宿泊できるといい、価格は時期や人数により変動するが平均で2万円前後。
7~8月は、マリンスポーツのベストシーズンということもあり100%で稼働したそうだ。

富永さんは、度々ゲストとサーフィンをするなど交流を楽しんでいる。
初心者向けのレッスンも好評で、料金は1名あたりレンタル料込みで6000円だ。
現在までに10組のゲストが参加した。

このところ、鎌倉を訪れる外国人観光客の数は右肩上がり。
鎌倉市の観光商工課によると、2007年~2012年ののべ観光客数は18万人~19万人だったが、2013年は約23万人と過去最高を記録し、その後も20万人台を保っているという。

材木座海岸のほど近くに住む女性は「ここ数年で外国人観光客、とくに最近は中国系の観光客をよく見かけるようになりました。近所で民泊を始めた人もちらほらいます」と、観光客と民泊双方が増加している様子を語ってくれた。
富永さん自身、過去のニューカレドニアに住んだ経験があり、鎌倉での民泊市場の開拓に、そのときの経験が活かせると期待している。
「今後も観光客との交流を目指して、20棟オープンすることが目標」だという。

必要なのは、過剰な規制より自主的なルール作り

大阪の事件で、民泊を転々とする外国人によって物騒な事件が起きてしまったことで、マイナスイメージに拍車がかかってしまったが、民泊は本来、異文化との出会いや交流、体験の場ととらえられてきた。
前述のえみさんも、最後に「異なるバックグラウンドを持った人々との民泊での出会いは、普段考えることのない話題に触れるきっかけを与えてくれました。直接、その国の文化や習慣、彼らが抱えている問題などを聞けたのは一番の収穫。いわゆる『観光名所』では感じられない魅力でした」と語ってくれた。

私自身も、違法民泊に泊まり続けて壮絶な体験を重ねた上に、さらに元民泊物件に住んで、その一種クレイジーな状況を肌身に感じてはいるが、日本の民泊市場が正常化され、本来のよい持ち味が活かされることを切に願っているからこそ、こうしてリポートを続けているのだ。
その思いに反して、今回のような事件が起こったことで、今後は民泊として部屋を貸す側の倫理観が問われるだけでなく、利用者側のリスク管理や判断力まで厳しく問われることになってしまった。

まったく不幸な事態だが、私たち利用者が民泊を利用する際は、紹介サイトなどに載った過去の利用者のレビューを見るしかないのが現状だ。
そのため政府や自治体は、いまや民泊業界を「問題児」としてとらえ、規制の檻に押し込めて、ともすれば「潰してしまえ」といわんばかりの対策に動いている場面も散見される。
せっかく芽生えた「よい交流の場」の萌芽まで摘んでしまわないためには、オーナーや紹介サイトの運営会社などが積極的に立ち上がり、合理的な方法で信用と安全を担保する仕組みを編み出すことが必要だろう。

[出典:違法民泊にハマった女子が語る「出会い系民泊」の闇(吉松 こころ)現代ビジネス(講談社 > http://gendai.ismedia.jp/articles/-/54689 ]

「民泊」は、世界の人たちと交流する良い出会いの場なのでしょうが、危険な目に遭う可能性もあるということ。
事件が起こらないようにコントロールされていくことを願っています。

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