住む家を借りる時に気にするのが「事故物件」かどうかですよね。
そんな事故物件に住む「瑕疵(かし)借り屋」という仕事があるそうです。
怖くて聞けない「事故物件」にまつわる都市伝説
これは誰にでも起こり得る物語だ
松岡 圭祐 2018.05.23
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p>おおきく分けて3パターン
先日、都内にある仕事場のひとつを改装しました。
依頼先は建物を建築したメーカーのリフォーム部門で、担当者から職人まで、みな数年ごとにお世話になっている方々ばかりです。そのとき、ふと気づかされたのです。
仕事場だけに家族もほとんど寄り付かない建物の内情に、最も詳しいのはオーナーである自分ではなく、この改装業者さんたちではないかと。戸建てやマンションずまいの一般家庭にしても、親子や兄弟姉妹間の関係は希薄となりつつあります。
自治会への加入が任意との判例があるため、隣人とすら言葉を交わさないケースも増えています。
そんな現代社会において、間取りから家族の暮らしぶりまで客観的に把握しうるのは、そこに出入りする業者ではないでしょうか。高齢化とともに深刻な社会問題となっている孤立死も、そこに至るまでの過程を証言できたのは、離れて住む身内ではなく、庭の手入れを頼まれた植木屋や、食事を運んでいたデイサービスの従業員だったという話も、ときおり耳にします。
今回、拙書『瑕疵借り』を発想したのは、まさにそんな世のなかの一側面を象徴的に描写し、これまで不可視となってきた問題を浮き彫りにしうるのでは、そう考えたからです。都会を中心に賃貸のひとり暮らしが増加する昨今、病死や自殺などで賃借人が死亡すると、その部屋は瑕疵物件となってしまいます。
「大島てる」氏の瑕疵物件検索サイトが多く閲覧されている事実からも、世間の関心の高さがうかがえます。むろん単純な好奇心もあるでしょうが、新たな物件を探している人々にとっては、瑕疵物件を避けるための情報入手の場にほかなりません。
瑕疵物件には告知義務といって、次の入居希望者に対し、前の住人の身になにが起きたかを説明する必要が生じます。これを怠ると違法となり、売買物件においては損害賠償が認められたことさえあります。
賃貸物件はそこまで厳しくはないようですが、やはり告知義務違反はご法度であり、賃貸契約に大きな亀裂を生む事態になりかねません。そうした瑕疵はいくつかに大別されます。
建物自体に問題がある物理的瑕疵や、同じく建物に法令違反がみとめられる法的瑕疵は、わりと基準がはっきりしているため隠蔽されにくいといえます。環境的瑕疵は、周辺に悪臭や騒音を放つ場所があったり、治安が悪かったり、物件以外に難点が潜んでいるケースですが、これも地域を観察すれば実状が立証できます。
問題は残るひとつ、心理的瑕疵です。物件で過去に起きたできごとにまつわり、嫌悪感を持たれるなら、心理的瑕疵を生じているといえます。
事故物件や、いわく付き物件とも呼ばれます。
賃借人が気にしないのであれば、問題も生じないのですが、そうとばかりは割りきれないことを法も認めているわけです。
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p>瑕疵物件に住む専門業者の存在は?
ところでインターネット上では風変わりな仕事として、心理的瑕疵物件にひと月住むだけという専門職の存在が囁かれています。
みな住みたがらない物件に、誰かひとりでも住めば、以後の告知義務が消えるため、大家や管理会社が居住を依頼するとのことです。ただし、こんな職業はナンセンスです。
実のところ短期間で賃借人が賃貸契約を解除した場合は、次の入居希望者にも告知義務が残ることになっています。ケースバイケースですが、賃貸においては2年ほど、瑕疵に関する説明責任が存続するようです。
逆にいえば、都市伝説のようにひと月ということはなくとも、2年間住む前提で大家や管理会社に協力する人間は、いないとも限りません。
もちろん表向きには、大家らとは無関係のように装い、ごく一般の入居者として暮らすでしょう。そんなふうに想像をめぐらせたとき、ふとある考えが頭に浮かびました。
瑕疵物件に住むのを生業とする者がいたとして、その人物はなにごとにも無関心でいられるでしょうか。冒頭に綴った改装業者と同様、瑕疵の事情について数多くのケースに触れ、詳しくなっているかもしれません。
部屋の清掃や改装の痕跡を見ただけで、前の賃借人の生活や、どんな瑕疵を生じたかを察知しうるようになるのでは、そのように発想がひろがりました。『瑕疵借り』はそういう人物が社会に存在すると仮定した物語です。
孤立死により身内を失ったとき、遺族にその死の真相を報せてくれるのは案外、告知義務を抹消するため瑕疵物件に住んだ「瑕疵借り屋」かもしれません。
読書人の雑誌「本」2018年6月号より
[出典:怖くて聞けない「事故物件」にまつわる都市伝説(松岡 圭祐)現代ビジネス(講談社 > http://gendai.ismedia.jp/articles/-/55759 ]
ミステリー作家の松岡圭祐さんが「瑕疵借り屋がいるとしたら」と仮定して書いた物語『瑕疵借り』。
面白そうなので読んでみたいですね。
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