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性的テロを告発、ノーベル平和賞を受賞したデニ・ムクウェゲ医師

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性的テロを告発してノーベル平和賞を受賞した、コンゴ民主共和国の婦人科医デニ・ムクウェゲ医師の話です。

性的テロを告発したノーベル受賞医師の凄み

10/9(火) 10:40配信

10月5日、コンゴで性暴力の被害に苦しむ人々の治療に当たってきたデニ・ムクウェゲ(Denis Mukwege)医師に対し、ノーベル平和賞が授与されることが決まった。性暴力問題に対峙するムクウェゲ医師が受賞した大きな意義について、2016年に同医師の来日を実現した米川正子・立教大学特定課題研究員が解説する。
 コンゴ民主共和国の婦人科医デニ・ムクウェゲ氏が、イラク人のナディア・ムラド氏とともに2018年のノーベル平和賞を受賞した。

 ムクウェゲ医師は1999年にコンゴ東部のブカブにパンジ病院を設立して以降、暗殺未遂に遭いながらも、医療、心理ともに4万人以上のレイプ・サバイバー(性暴力被害者)を治療してきた。

 ノーベル賞委員会は受賞理由を「戦争や武力紛争の武器としての性暴力」撲滅への貢献を挙げている。筆者はこの20年間コンゴに関わり、2013年以降、ムクウェゲ医師の活動を日本に紹介してきた。今回の受賞は大きな喜びであり、心から祝福したい。

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■性暴力ならぬ「性的テロリズム」

 筆者は、1998年から2008年までに通算4年間、コンゴ東部、西部と首都キンシャサで国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)職員として勤務した。最後の勤務地である東部のゴマでUNHCR所長を務めた際に、レイプのサバイバーに会ったことから、紛争下の性暴力の問題に関心を寄せるようになった。

 UNHCRを退職後、コンゴの紛争に関する研究に従事し、ムクウェゲ医師の演説を聞いたり、医師の論文を読み始めたりした。2016年に任意団体「コンゴの性暴力と紛争を考える会」を発足させ、ムクウェゲ医師の活動を描いたドキュメンタリー映画『女を修理する男』(原題「The Man Who Mends Women」)に日本語字幕を付けて全国各地で上映し、同年にはムクウェゲ医師の初来日を実現した。
 ムクウェゲ医師が受賞した意義はどこにあるのか。それを解説する前に、まずは紛争下の性暴力が「戦争の武器」である実態を知る必要がある。

 ムクウェゲ医師の受賞発表後、さまざまな報道が相次いでいるが、どのような目的で武器として性暴力が悪用されているかについて十分に認識されていないようである。

 性暴力は加害者の性的欲求から行われることもあるが、経済的、政治的な理由から組織的に生じることも多い。紛争下の性暴力に相当な影響力と破壊力があるため、ムクウェゲ医師は性暴力ならぬ「性的テロリズム」と呼んでいる。

 性的テロリズムは、世界各地で広く使用されている自動小銃「AK47」のような武器と違って購入とメンテナンスを必要としないため、費用がかからず、体一つで多くの人々を精神的にも身体的にも痛い目に遭わせられる。

 しかも、時折例外もあるが、被害を受けた身体の部分が女性としては他人に見せにくい部分であるため、性的テロリズムはその証拠を残すことも安易に他人に見せることもできず、不可視化されている。

 加えて、コンゴのような紛争国では司法制度はほぼ機能していない。結果として、加害者は不処罰でいることが多く、まさに最も効果的で安上がりな武器である。

■性的テロリズムは恐怖心を植え付ける

 その性的テロリズムが「意図的な紛争手段」として経済的に利用されているのは、コンゴ東部が豊富な鉱物資源を有していることと関係している。

 コンゴ東部の資源産出地域および流通経路は、コンゴ国内や近隣国のルワンダとウガンダの武装勢力(国軍と反政府勢力の両アクター)が支配している。武装勢力が鉱山の周辺地域で性暴力をふるうことによって、性暴力のサバイバーとその家族だけでなく、コミュニティ全体に恐怖心を植え付けられる。
 なぜ恐怖心を植え付けることが重要なのか。それは、加害者、つまり武装勢力にとって住民を支配するのに非常に都合がよいからだ。

 まず、集団レイプが家族の前で犯されることが多いうえに、性暴力が不名誉なこととしてサバイバーやその家族を苦しめ、恥や無価値であるといった精神的なダメージをもたらす。村の生計を支える農作業や商業においては女性の働きが重要であるが、直腸まで達するような傷を受けると女性は働けなくなるため、農業や商業が破綻してしまう。
 そして、性的テロリズムの残虐さを見せつけられたコミュニティの住民は、恐怖のあまり他の地域や国外に移動を強いられたり、政府や武装勢力に立ち向かう気力を失ったりして従順になる。このような従順な奴隷労働者は鉱山で必要としている。何しろ、鉱山の労働環境は非常に苛酷であるからだ。

 こうした鉱物資源と性暴力の関係について、国連も2015年の文書で、「資源と鉱山集落の支配をめぐる武装勢力間の競争は、増加している文民の移動、人身売買や性的虐待と関係している」と指摘している。

 ムクウェゲ医師らの調査でも、鉱物が豊富な地域と性暴力の発生地が一致していることが指摘されたが、それはあくまでも限られた地域のみであり、さらなる調査が必要だと明記している。

 こうした資源利用によるコンゴ東部の性的テロリズムと紛争の長期化は、グローバル経済を通じて、日本にいる私たちの暮らしともつながっている。

 特に紛争資金源として利用されている4鉱物(スズ、タングステン、タンタル、金)は、世界各地で産出される鉱物と混ざって、携帯電話やパソコンなどの電子機器から自動車や航空機に至るまで、あらゆる工業製品に使用されている。
 さらに悪いことに、コンゴ東部における性暴力は典型的な(集団的)レイプだけではなく、木の枝、棒、瓶、銃身や熱い石炭などが性器に挿入されたり、時には集団レイプの後、膣が撃たれたりすることもある。

 それによって、女性の性器が機能しなくなると子どもを産めなくなり、まさに、性的テロリズムは命を産みだし育てる存在としての女性とその性器を破壊する意図を持って行われているのだ。

 それが長期的に現地の人口減少につながり、その結果、上記の強制移動と奴隷労働に加えて、武装勢力はますます資源産出地域を支配しやすくなる。

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■最悪の環境で闘うムクウェゲ医師受賞の意義

 ムクウェゲ医師がノーベル平和賞を受賞した意義は3点あると思われる。

 第一に、医師がコンゴの性的テロリズムのサバイバーを治療した最初の婦人科医であり、コンゴ東部における鉱物の略奪を目的に国軍や反政府勢力が性暴力を犯し続けた事実について、国連本部をはじめ世界各地で声高に非難し、女性の人権尊重を訴えてきた最初の人物であることだ。

 ムクウェゲ医師が手術するケースも、性器破壊が原因で生じているものが多く、「集団レイプによって生じる体内の傷を治療する世界一流の専門家」とも呼ばれている。
 第二に、ムクウェゲ医師が、コンゴの問題だけでなく、世界における紛争下の性暴力や女性の人権の尊重について訴えてきたことだ。このようなアドボカシー活動をしている女性は世界各地にいるが、男性は大変珍しい。

 ムクウェゲ医師は時間の25%をアドボカシー活動に費やし、特に紛争下の性暴力を止めるために世界各地を回っている。筆者が2016年、来日したムクウェゲ医師をアテンドした際も、会話の中でボスニアやコロンビアなどで出会った性暴力のサバイバーの話が何度か出た。

 韓国でソウル平和賞を受賞した際には、ムクウェゲ医師は「日本政府は被害者の(元慰安婦の)要求を受け入れ、赦しを求めなければならない」とコメントした。核兵器や化学兵器を規制するのと同様に、戦争の武器としての性的テロリズムも規制されなければならないとアピールしている。

 第三に、ムクウェゲ医師が暗殺未遂に遭い、コンゴで親友や人権活動家などが暗殺されながらも闘ってきたことだ。

 無論、同時受賞したムラド氏も過去の受賞者の多くも、リスクを負いながら活動してきた。ムクウェゲ医師が他の受賞者と違う点は、「世界のレイプ中心地」「女性と少女にとって世界最悪の場所」とも描写されているコンゴ東部の最悪の環境で危険を顧みず治療に当たってきたことだろう。
 1996~1997年の第一次コンゴ紛争においては、「ジェノサイド(民族浄化)」とも特徴づけられる非人道的行為が行われた(国連報告書、2010年)。1998~2002年の第二次コンゴ紛争においては、周辺国をはじめとする約17カ国が軍事的や政治的に介入して「第一次アフリカ大戦」とも呼ばれる大規模な国際紛争に発展した。

 2003年に公式には紛争が終結してもなお、コンゴ東部では複数の武装勢力による活動が継続し、累計で約600万人という、第二次世界大戦後の世界において、一地域の犠牲者数としては最大の規模になっている。

■コンゴ問題は日本人も無縁ではない

 今回の受賞をきっかけに、紛争下の性暴力に関心が高まることが期待できるが、それだけでは足りない。コンゴのサバイバーは20年間、「国際社会」による解決を待ち続け、その間男性も含めて多くのサバイバーが亡くなっている(男性のサバイバーの多くは自殺している)。

 コンゴにしろ、他の地域にしろ、性的テロリズム、そして紛争自体に終止符を打たなければ意味がない。紛争が長期化している原因の1つに加害者が不処罰でいることが挙げられる。実は、国際刑事裁判所(ICC)はこれまで、コンゴ東部における性暴力の加害者を一人も起訴したことがない。事態の打開へ向け、ICCはもっと積極的に関与する必要がある。なお、性暴力がコンゴ東部ほど蔓延していない同北東部で犯された性暴力の責任者は起訴されている。

 同様に、コンゴで起きている紛争とはコンゴ人同士が戦闘している内戦ではなく、地域紛争、あるいは大国などが間接的に関与している国際紛争であるため、ムクウェゲ医師が訴えてきたように、さまざまな指導者らが非暴力な形で政治的解決をしなければならない。

 このようにコンゴをめぐっては解決すべき問題が山積している。加えて、世界最大級の国連平和維持活動軍(PKO)が派遣されていながら、なぜコンゴ東部で世界規模の紛争が続いているのか。なぜ「資源の呪い」が起きているのか。さまざまな疑問が残る中、研究や活動に従事する人が増えることが期待されている。
 コンゴと日本の関係をさかのぼっても、広島に投下された原爆には、コンゴ産のウラニウムが含まれていた。そして、現在の日本も、グローバル経済を通じてコンゴと関係性がある。にもかかわらず、これらの事実は十分に認識されていない。

 ムクウェゲ医師への関心の高まりとともに、性的テロリズムの実態だけでなく、コンゴに関心を持つ日本人が増えることに期待したい。

米川 正子 :立教大学特定課題研究員

[出典:性的テロを告発したノーベル受賞医師の凄み(東洋経済オンライン)(Yahoo!ニュース > https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20181009-00242000-toyo-bus_all ]

こういう問題は、民族主義が根底にあると思います。
イスラム国に性奴隷として連れていかれた女性は、「ヤジディ教徒だから」と言う理由で人間扱いされませんでした。
宗教戦争も、民族主義によるものが大きいのではないかと思います。
いかに民族主義の壁を越えるかが、世界平和への道ではないかと個人的に考えます。

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